ヒレ・パールのバッハの編曲ガンバソナタ全集
あった、あった。
バッハのオルガルのための6つのトリオソナタを全曲ヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタとして演奏しているのがこれ…。
演奏は才媛ヒレ・バールのガンバとチェンバロのシォルンシャイム…と思いきや彼女らの裏に男がいたのだ。
表からは見えない解説の裏表紙の写真!
サンタナ(ロックギタリストのカルロス・サンタナとはもちろん別人)がバロックリュートで通奏低音を担当している。ガンバのヒレ女史とはコンビを組んで以前、こんなCDも出している。
う~ん。意味深…。
今回のバッハの録音は2009年、今回はアーチリュートでなくロココスタイルのバロックリュートか~。いや待てよ?ちょっと変だぞ。
…そもそも、
バッハのオリジナルのヴィオラ・ダ・ガンバソナタ及び昨日紹介したオルガントリオソナタの編曲版は、チェンバロは右手で高音部(1stパート)、左手で低音部(バスパート)を受け持ち、中声部(2ndパート)をガンバが受け持ち、全体としてはトリオソナタの形を取りながらも、ガンバソナタとして性格を強めている。このバッハが用いた手法は、他の和音を補充する通奏低音楽器を伴わずにチェンバロのみで旋律楽器を支える近代的な独奏ソナタの先駆けでもあり、フルートやヴァイオリンソナタのいくつかにも採用されている。もし1stパートを何らかの旋律楽器に置き換えれば、バスパートはチェロなどの低音楽器で補強され、和声を補充するチェンバロやオルガン、テオルボなどの通奏低音楽器が要求される定番のトリオソナタのスタイルになってしまう。昨日紹介したオルガントリオソナタ第4番の原曲のカンタータBWV76シンフォニアを参照されたい。
その事を踏まえると、リュートを加えたこのCDの演奏は、先程あげたバッハの意図を汲んでおらず、まさに蛇足であるとの誹りを免れない。余計な和音がチェンバロの右手の旋律を殺しており、カンタービレな第2楽章(緩徐楽章)はまだしも、和声的旋律が絡み合う速い楽章(例:第1番第1楽章の一節)では、
リュートはかなり控えめなのだが(中途半端なら初めから加えない方がいいのに…)、やはりうるさくまとわりついて不快感すら感じる。
それにしても、悪くも良くもヒレのガンバはとにかく元気だ。緩徐楽章もあっけらかんとしてサラリと流れていくようでいて何か落ち着きがない。おや?と思い原曲のオルガントリオソナタの楽譜とにらめっこ。
謎が判明。パールは、ヴィオラ・ダ・ガンバのパートを頻繁に楽章ごとに入れ換えていたのだ。以下、ヴィオラ・ダ・ガンバがどのパートを弾いているか、ざっと分析した結果をあげてみる。
第1番変ホ長調BWV525
第1楽章:1st
第2楽章 前半部:1st・繰り返し:2nd
後半部:2nd・繰り返し:1st
第3楽章:2nd
第2番ハ短調BWV526
第1楽章:2nd
第2楽章:1st
第3楽章:2nd
第3番ニ短調BWV527
第1楽章:2nd
第2楽章 前半部:2nd・繰り返し:1st
後半部:1st・繰り返し:2nd
第3楽章:1st
第4番ホ短調BWV528
第1楽章:2nd
第2楽章:1st
第3楽章:1st
第5番ハ長調BWV529
第1楽章:2nd
第2楽章:2nd
第3楽章:2nd
第6番ト長調BWV530
第1楽章:1st
第2楽章 前半部:1st・繰り返し:2nd
後半部:2nd・繰り返し:1st
第3楽章:1st
こうして、全体を眺めると定石通り一貫して2ndパートを演奏しているのは第5番のみである。他の曲は、目まぐるしくパートを入れ換え、同じパターンは一つもない。意欲的ともとれるが、そうする必然性を見いだすことができない。音域が同じ楽器ならパートを入れ換えても余り違和感が生じないが、低音楽器で高音部パートで演奏することは音域的に無理や矛盾が生じる。それが落ち着きのない印象を与えていたのである。様式なんか気にしないお転婆的演奏と言えよう。
冒頭にあげたマラン・マレのCDの方が、ヒレとサンタナはのびのびと本領発揮しており、面目躍如たるものがある…と付け加えておこう。
頭の中がトリオソナタの旋律に染まってしまった藤兵衛であった。
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