ヴァイラウフのプレリュードは贋作?
ピアンカとバルキのつながりから、あることに気がついた。
以前、このブログで、バッハの身近で彼のリュート作品に大きく関わったヴァイラウフ(Johann Christian Weyrauch 1694~1771)について述べたことがある。バッハのリュート作品のパルティータ(ファンタジア)ハ短調BWV997とフーガト短調BWV1000の2曲をタブラチュアに書き直したリュート愛好家として知られ、作品も残しているらしいが、その実態は知られていない。ところが、YouTubeに、そのヴァイラウフ作曲のプレリュードがアップされていることを紹介した。
改めてその動画を紹介する。
あまりの美しさと意外性に衝撃を受け、その曲の正体を知りたく色々調べても、杳としてその実態をつかめないでいた。しばらく忘れていたが、最近久しぶりに覗いたところ、アップされていたコメントに唖然とした。
"The prelude is NOT by Weyrauch, but by Michele Barchi. Please, correct" (このプレリュードの作曲者はヴァイラウフでなくミケーレ・バルキ氏なので訂正よろしく…)
う~ん…。
このコメンテーター「bersa888」氏 のチャンネルをたどってみて納得する。彼は G. Bersanetti なる架空のバロック音楽家の名前で自ら作曲したバロック音楽風の曲をYou Tubeにアップしているのである。そこにBersanetti作曲のチェンバロ曲を演奏するバルキ氏の動画がいくつかアップされているではないか!楽譜もダウンロードできる…。
しかもバロック音楽の手法様式を用いて作曲した曲を紹介する「Vox Saeculorum」なるHPも紹介されている。バルキ氏は参加していないが、交遊関係からしてこのような創作活動に携わっている可能性は高い。
彼が指摘する通り、このプレリュードはピアンカがヴァルキの創作した曲をヴァイラウフの名前を附して演奏したものであろう。
こうした偽作は今に始まったことではない。
カッチーニのアヴェマリア(実はウラディーミル・ヴァヴィロフの作曲)、アルビノーニのアダージョ(実はジャゾットの全くの創作)、ギター曲で有名なヴァイスの組曲イ短調・同ニ長調・バレット・前奏曲(実はセゴヴィアに請われたポンセの作曲)など枚挙にいとまない。
多くの善男善女を惑わし、専門家さえ手玉にとってきた。 無邪気に褒めたたえたコメントを読むと胸が痛む。
こうした行為は、ポンセのように真相が暴かれかえって作曲家の力量を称える場合もあるが、名もない作曲家の場合、自作を世に問う一つの手段という好意的な見方はされず、その多くは愛好家の激しい誹謗を受けることになる。
この「Vox Saeculorum」を覗いてみるとかつてリュート界を炎上させた有名な事件の当事者が名前を連ねている。これは、その典型的な例であろう。
毎日が4月1日ではいかんぜよと思う藤兵衛であった。
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コメント
こんばんは。
このビデオ見た事あります。
そういう経緯だったんですか。
最初見たとき、単弦で8+5コース。
テオルボにしては小さいし、何か怪しげなリュートだなあと思ってたんですよ。
音楽にも違和感がありましたしね。
投稿: 奇士 | 2010年4月 4日 (日) 23時08分
一種の楽屋落ち的ジョークですね。
この手のジョークと言えば何といっても中川さん。
今年の4月1日もやられました。
奇士さんもコメント寄せられていましたね。
投稿: 藤兵衛 | 2010年4月 5日 (月) 19時03分