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バッハとリュートあれこれ(17)~BWV998その4

4.  BWV998第3楽章 Allegroについての考察

BWV998 プレリュード(通称プレリュードとフーガとアレグロ)と題された3楽章のこの曲は「三位一体のソナタ」といってよい。(全回の稿参照)。第3楽章のアレグロ冒頭の下降する音型は「聖霊」の象徴である。

   前回では、バッハの末期の作品である『クラヴィール練習曲集第3集』(1739年9月末刊行)に含まれるオルガンのための「前奏曲とフーガ」BWV552変ホ長調との関連に触れたが、同じくバッハの晩年の作品の一つであるオルガンのための『カノン風変奏曲「髙き御空より我は来たり」』ハ長調BWV769(作曲時期1747年頃~1748年8月)

Bwv769

との意外な接点をいだすことができる。この曲は1738年、L.Ch.ミツラーが創設した「音楽学術交流協会」にバッハが14番目(BACHを表わす数字…アルファベットを順に数字の並びに置き換えた合計した数)の会員となるべく1947年6月に入会した際に提出した作品である。入会の際に肖像画と、入会者の学識技量を示すための作品の提出が義務づけられたのである。そのためにバッハはルターの有名なクリスマス用のコラールに基づく5つのカノン風の変奏を持つこの曲を書き上げた。

   カノンによる対位法技法を駆使し、最後はコラールの各行をストレッタとして重ねて行くという離れ技を演じている。BACHの文字を音符に置換えさりげなく曲中に署名する演出も添えられた、バッハの意気込みが感じられる晩年の隠れた名作である。

  実は、この曲のコラールを飾る冒頭の自由声部の主題が、このBWV998のアレグロの主題と全く同一なのである。判りやすくBWV769の冒頭をBWV998と同じ変ホ長調に移してみる。

Bwv769_es

改めてBWV998の冒頭と比較して見ていただきたい。
 Bwv998_al01a

  しかも、続くパッセージを比べても両者はまるで双子のようだ。

  これは偶然の一致ではなく、バッハがこの主題に、高き御空より「降臨する者」の姿を込めていることがより明確に浮かび上がる。その原型は『トッカータト長調』 BWV916の中に見いだせる。(バッハとリュートあれこれ(15)参照)

Bwv916_3

『トッカータト長調』 BWV916

  「髙き御空より我は来たり」というコラールは、バッハの『クリスマスオラトリオ』BWV248は言うまでもなく、同じくBWV998との関連で触れたクリスマスに演奏されたマニフィカト初期稿BWV243a変ホ長調の挿入曲としても登場する。オルガン・コラール作品も数曲残っているようにバッハお気に入りのコラールの一つでもある。

  BWV998の作曲年代は早くて1735年頃、遅くとも1745年迄には成立したと考えられている。このBWV998の「三位一体」の象徴のイメージが、『カノン風変奏曲』に反映されていると充分考えられる。逆に言えばBWV998はクリスマスに関連して「三位一体」を象徴した作品と類推できる大きな根拠と自分は考えている。この事はプレリュードやフーガの項で述べてみたい。

 このアレグロは、単純でシンプルな2声の構造である。上声部は、一貫して16分音符で目まぐるしく駆け巡り、「降臨する者」の飛翔を表わしている。一見バッハの2声のインヴェンションやヘンデルのクラヴィーア組曲第7番ト短調の第3曲アレグロ

Handl_kl7all

などを彷彿とさせるが、下声部は、それらの曲とは違い上声部を模倣せず4分または8分音符で上声部を支えリズムを刻む伴奏役に徹している。そのシンプルな構造はヴァイスのリュート作品に近づいており、リュート曲としても大きな破綻(技巧的困難)は見られないより自然なものになっている。

Jswd25_pre

ヴァイス:   リュートソナタ第25番変ロ長調よりプレスト~テレマン『忠実な楽長』にも掲載

   同じ下降音型を持つバッハのリュートのためとされる組曲ホ短調BWV996のジーグと比べてみると、構造の違いが明瞭になる。

Bwv996_gig1

以下は同後半冒頭

Bwv996_gig2_4

    声部の模倣が頻繁におこなわれ、16分音符の急速な3度の連続などの構造は、リュートでの自然な流れの演奏を拒む。初期の作品と言われるBWV996の組曲は基本的にはクラヴィーア曲の性格が強いことが読みとれる。2声がほぼ対等に絡み合うブーレ然り。晩年のリュート奏者ヴァイスとの交流が、バッハのリュート曲に対する理解を深めたことはいうまでない。

仕事でのある原稿が仕上がらずあせりまくりの藤兵衛であった。

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