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『忠実な楽長(音楽の師)』~定演の解説

 今週の土曜日の定期演奏会の自分の独奏演奏用の解説がやっと出来上がった。数年前からプログラムとは別刷で自前で用意している。

 その内容を、定演を前に紹介いたしたい。(実際はA3見開きのリーフレット。レイアウトその他実際のものとは一部異なる)

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古楽器の世界     
    テレマン『忠実な楽長(音楽の師)』解説  

 ゲオルク・フィリップ・テレマン(Georg Philipp Telemann 1681-1767)

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  ドイツでバッハ(1685-1750)と同じ時代に活躍した後期バロック音楽の作曲家である。バッハよりも5歳年長で22年ほど長く人生を送っている。12歳で既にオペラを作曲しており、単純に考えても彼はバッハよりも多くの作品を残している。協奏曲・管弦楽曲200数十曲、室内楽曲200曲余、オペラ20数曲、受難曲46曲、教会カンタータは実1000曲を下らない。ちなみにバッハの作品番号は1100台に留まる。

 ところが、バッハに比べその全容が整理出版されておらず、これいった伝記も見かけない。バッハの深い精神性や緻密な構造と比較され蔑ろにされてきた感は否めないが、当時は遥にバッハを凌ぐ名声をテレマンは得ていた。38歳でライプチヒのトーマス教会のカントルに就任し、そこで教会音楽家と学校教師として生涯を送り、保守的な市当局や学校、教会との絶え間ない軋轢なかで創作を行ったバッハに対し、テレマンはまったく対照的な自由な創作活動の場を得た。

 テレマンはバッハと同様宮廷や教会の楽長を経験したのち、31歳で就任した自由都市フランクフルト(アム・マイン)の教会楽長を足掛かりに、40歳には自由ハンザ都市ハンブルクに移り住み、46年間に渡り都市音楽監督と教会カントールを勤めあげている。自由都市と いう環境の中で、裕福な市民や周辺の王侯貴族を相手にのびのびと作曲をすることをテレマンは許されたのである。ライプチヒ市当局が、当初はライプチヒ大学で学んだこともあるテレマンをカントルとして呼ぼうとしたが断られ、しかたなく二流のバッハで我慢したという経緯は何とも皮肉なことである。
 テレマンは、大衆受けをねらった軽い内容作品ばかりでなく、『ターフェル・ムジーク(食卓の音楽)』や 『四重奏集』などの創意工夫にあふれ時代を切り開く作品や、『ブロッケス受難曲』などの深い表現に満ちた傑作も数多く残している。

   そんな彼が、音楽好きな市民向けに彼が企画したのがこの『忠実な楽長(音楽の師)』なる様々な楽器に(声楽も含む)による楽譜集の出版である。1728年より25回(レッスン/章程)に渡り隔週で、自作の新作を中心に他の音楽家の作品などを4ページのリーフレットで紹介している。事実上、世界初の定期的な音楽誌出版といえる画期的なものである。

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第1章程(レッスン)の表紙

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同第1章程の冒頭のFlauto dolce(リコーダー)ソナタ冒頭

 その内容はチェンバロ独奏やリコーダー、フルート、ヴァイオリンのソロソナタやデュオをはじめオペラのアリアなど家庭で手軽に楽しめる構成の曲が中心である。彼がいかに商売上手であったかは、多楽章のソナタを細切れにして、続きはまた次号でというスタイルを取っていたことからも伺える。手軽で心地よい素人受けする作品や、公演され話題を呼んだオペラ※のアリアの魅力に誘われた読者(愛好家)は、つい続刊を買ってしまわざるをえなくなるのである。その一方、高度なテクニックを要する難しい曲や、リュートとかヴィオラ・ダ・ガンバなどの珍しいマイナーな楽器のための作品、謎解き(展開)を要するカノンをさりげなく散りばめ、フーガの主題だけ用意し後はおまかせ…と、マニア(通)の心もくすぐる技も心得ている。

 バッハやゼレンカといった対位法の大家、当世一流のドレスデン宮廷で活躍するヴァイオリン、リュートの名手であるピゼンデルとヴァイスの作品などがその演出に花を添える。彼らは、音楽を愛する人々のために無償で曲を提供して欲しいというテレマンの要請に協力した(まんまとおだてに乗った)のである。
     ※注:おそらくテレマン作曲の複数のオペラから抜粋されているが原曲(全容)はどれも伝わっていない。
           
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古楽器の世界  曲目紹介 テレマン『忠実な楽長(音楽の師)』より

1. S.L.ヴァイス作曲   リュートのためのプレス

   ヴィオラ・ダ・ガンバやリュートは、テレマンやバッハの頃の頃に最後の時代を迎えている。それでも、ヴァイスやバロン、ファルケンハーゲンといった名人が宮廷などで活躍し、王侯貴族や、富裕な市民の中でもリュートを嗜む人々が少なからずいた。例をあげれば、フリードリッヒ大王の姉でヴァイロイトに嫁いだヴィルヘルミーネ(Wilhelmine 1709-1758)や、バッハのカンタータ等の台本を書いたクリスティアーネ・マリーア・フォン・ツィーグラー女史や文人ゴトシェートの夫人ルイーゼなど教養ある女性のリュート愛好 家も見られる。バッハ自身もリュートのためにいくつかの作品を残しており、自宅を訪問したヴァイスとのリュートと競演を物語る作品BWV1025(ヴァイスのリュート曲をチェンバロに置換え、バッハがヴァイオリン  のパートを新たに付けている)も残している。しかし、彼らの次の世代でリュートは姿を消していく。
   テレマン自身のリュートの作品は現在知られていないが、『忠実な楽長』の第12章程にはそのヴァイスの単独の作品、そして第13~16章に渡ってバロンの組曲が紹介されている。いずれも、タブラチュア譜で掲載されており、愛好家以外は解読不能な専門的なものである。(下はその冒頭部分)              

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 比較的簡素なバロンの作品に比べて、かなりのテクニックを要したこの作品は、ヴァイスの名人芸を自分の手で味わえ、さぞかしマニアの目を惹きつけたことであろう。
   もともとは、ドレスデンの手稿譜に残る ~アルマンド-クーラント-ブーレ-サラバンド-プレスト~の舞曲で構成されたソナタ(組曲)の最終楽章である。(下はその冒頭部分)

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 おそらくはテレマンのリクエストに応じてヴァイスが厳選して送ったものであろう。低音部もヴァイスの作品の中では目まぐるしく動き、ギャサラントな様式に一層の華やかを添えている。また、バッハが随所で使った「涙のモチーフ」と呼ばれる滴り落ちるような音型と、8分音譜の持続低音上で奏でられる長短短の歯切れ良いフレーズの対比が印象的である。

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バッハ『マタイ受難曲』 第65曲アリア「我が心清くあれ」

 使用楽器:Brian Cohen 1975 London 13コースバロックリュート(スワンネック/ジャーマンテオルボ型Hoffmannモデル)

2. テレマン作曲 無伴奏ヴィオラ・ダ・ガンバのためのヴィヴァーチェ

 チェロと形は似ているが、音も小さく、弓のもち方や、弦の数、指板にはられたフレットといった昔から の伝統を色濃く残すヴィオラ・ダ・ガンバも消えつつある楽器ではあった。しかし、バッハもテレマンもこの楽器のために作品を残しており、愛好家も少なからずいたようだ。バッハの息子のC.F.エマヌエルやバッハとケーテン宮廷時代同僚であったこの楽器の名人アーベルの息子カール・フリードリヒが最期の時代 を飾る傑作を残している。

 このVivaceは、第15から16章程に渡って掲載されたテレマン自身による「チェンバロ無しの(無伴奏)ヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ」の最終楽章である。全体はAndante-Vivace-Recitativo-Arioso-Vivaceで構成されており、重音奏法やアルペジォなどのテクニックばかりでなく、RecitativoとAriosoといった語り歌うような人間の声に近いヴィオラ・ダ・ガンバの特性を意識して作曲されている。この終楽章は、3拍子のパスピエあるいは軽快なメヌエットで全体の中で一番馴染みやすい曲である。

使用楽器:Karl Roy 1966 Mittenwald 7弦バス・ヴィオラ・ダ・ガンバ(Bertranモデル)
                                             
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以上、本日やっと形ができた。

他に、ヴィオラ・ダ・ガンバで以前紹介したテレマンのリコーダーソナタの通奏低音、メンバー全員(フルート、オーボエ、ギター、尺八!、エレキベース、ピアノ/チェンバロ)という珍妙なアンサンブル)によるヴィヴァルディ「四季」冬の第2・第3楽章、そしてリコーダーやパーカッション(フォルクローレのボンゴ?)で参加する。あとは練習あるのみ…。

   ストレス解消に太鼓にはまりそうな藤兵衛であった。

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コメント

おはようございます。

今回はドイツ・バロックでテレマンの曲集からのプログラムですね。

テレマンが好きな私としてはとても興味深いです。
リュートとテレマンというと、幾つかの作品で指定されているガリコン(マンドーラ)が頭に思い浮かびました。

>そしてリコーダーやパーカッション(太鼓)で参加する。
若しかして和太鼓ですか?

投稿: 黒羊紳士 | 2009年9月17日 (木) 05時41分

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