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バッハとリュートあれこれ(15)~BWV998その2

   2. BWV998は断片的な作品なのか?

 このBWV998にいて、バッハの器楽作品に同じ形式がみあたらず、その中途半端な楽曲構成から「組曲(ソナタ)の断片ではないか?」いう説がある。また、バッハのこの曲の唯一現存する資料である自筆譜の『Prelude pour la Luth.ó Cembal. par J.S.Bach( リュートまたはチェンバロのためのプレリュード)』に着目すると、フーガとアレグロが無視されており、寄せ集められものではないか?という疑問がわく。

BWV998が一つのまとまった曲ならば、オルガンやクラヴィールの「プレリュードとフーガ」のように「プレリュードとフーガとアレグロ」という表題をつけるのが当然と考えるのは自然の理である。

   確かに「プレリュードとフーガ」という言い回しは『平均律クラヴィール曲集』において

      "Das Wohltemperirte Clavier. oder Praeludia,und Fugen durch alle Tone und Semitonia,...." 「平均律(程よく調律された)クラヴィール曲集。またはすべての調…云々…にわたるプレリュードとフーガ集…」

 とバッハ自身が使用している。同様にオルガンのための作品もほとんどが「プレリュードとフーガ」との表題がついている。

 しかし、これらのオルガン曲について調べてみると、意外にも多くのバッハの自筆譜が消失してことが判る。(参考:バッハ叢書[別巻2]『バッハ作品総目録』角倉一朗著(白水社))。つまり、その筆写譜の「プレリュードとフーガ」という表題は元来バッハ自身がつけたものだとは断定できないのである。興味深いことに、自筆譜が現存するBWV541ト長調とBWV544 ロ短調の2曲には、それぞれ

  BWV541: "Praeludium pro Organo con Pedal:obligate:di J.S.Bach"
  BWV544: "Praeludium pro Organo/com Pedale obligato/di/Joh:Seb:Bach"

と「オルガンためのプレリュード」とだけ記されており、フーガについて明記されていない。

  このことは、序曲や幻想曲(ファンタジー)といった曲にもあてはまる。

  例えば、『管弦楽組曲』BWV1067~69は、管弦楽で奏せられるフランス風序曲を冒頭にもつ組曲(舞曲集)なのであるが、実は「組曲」全体が式典やオペラの前に奏される「序曲」なのである。事実、原題は『序曲(Ouverture)』であり、『管弦楽組曲』は単なる通称なのである。逆にクラヴィール練習曲集第2巻の『フランス風序曲ロ短調』BWV831も実質は「組曲」であるが原題『フランス風序曲』で呼び慣らしている。

  同じく、オルガンのための『幻想曲とフーガハ短調』BWV562も自筆筆に
  "Fantagia pro Organo."とあり、即興的な自由な部分(ファンタジー)と対位法的な部分(フーガ)で構成された曲をファンタジーと呼んでいるだけである。同じ理屈がプレリュードにも当てはまる。先に述べたように『平均律クラヴィール曲集』が成立する頃に、「プレリュードとフーガ」という形式が様式化され、この名称が定着したのであり、厳密な区別をするまでもないことかもしれない。

  つまり、BWV998も曲全体を『プレリュード(Praeludium)』と称することは何も特別なことではなく、この表題をもって「寄せ集め」または「断片である」ときめつける根拠にはならない。

 何よりもBWV998が完結した作品であるという確たる証拠を新バッハ全集の『改訂報告』が言及している。まず、自筆譜における訂正の多さが、何かを寄せ集めて再構成したものではなく、四苦八苦しながら書き下したオリジナル版であることを強く物語っている。さらに、アレグロの終結部にオルガンタブラチュアを用いた理由は、足らなくなった紙面に何とか納めて記そうとした苦肉の手段であったことであり、しかもそれが譜面の最終頁の余白だけでは足りず、1頁目の余白をも使って記されていることを有力な根拠としている。アレグロをもって曲が完結させたバッハの涙ぐましい苦労の跡が読みとれる。

上野学園の所蔵のBWV998の自筆譜をコピーでもよいからジックリ拝見してみたいものだ。

それでも、なぜ最後にアレグロが必要であったのか?の疑問が残る。次回、そのことについて触れてみたい。

  このところBWV998に入れ込んで定演の練習がいい加減な藤兵衛である。

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