« 花見の後にシェンク | トップページ | シェンクの伝記、そしてヴァイスとの関係 »

シェンクのシャコンヌ=バッハのゴルトベルク変奏曲!?

前日の記事のシェンクのソナタの続き…。

 このCDの最後のSonata XV, F-Dur …Adagio-Allemande-Ciaconeのたった3曲というつつましさ。といっても終曲の『シャコンヌ』はバッハのシャコンヌにはとても及ばないがそれなりに長大。この曲集自体の最後の作品でもある。定型通りに同一の低音主題を26回繰り返しながら多彩な変奏を織りなして行く。春の訪れのような「ときめき.や萌え(本来の意味!)」を感じさせるヴィオラ・ダ・ガンバの名曲の一つである。

 

 ちなみにシェンクの同曲集のSonata X a-moll の『シャコンヌ』も肩を並べる佳曲である。両者ともあの有名なパッヘルベルのカノンに相通じる典雅さがある。これはリュートの大家ヴァイスのシャコンヌやパッサカリアにも同じ香りがすると以前から感じていたことだが、実はシェンクとヴァイスは短期間だが同僚だったことがある。おそらくシェンクからヴァイスが影響を受けたことは彼らの曲が発する匂いからうかがえる。(シェンクは1660年生まれで1716以降に没している。)…このことについてはまた後日…う~ん。「また後日」があっちこっち大分たまっているな~ぁ。

                   閑話休題…。

  実は、このSonata XV, F-Durの『シャコンヌ』は自分でも楽譜を手に入れてヴィオラ・ダ・ガンバで弾いたり、GhielmiとPiancaのガンバとアーチリュートのデュオの名演奏のCDでかなり慣れ親しんではいたのだ。

Schk_ciac_sol_7

Sonata XV シャコンヌヴィオラ・ダ・ガンバのソロパート冒頭部

 ところが、先のCDにおいて、この『シャコンヌ』の冒頭で「Hackbrett(ダルシマー)」が単独でこの低音主題をしっかりと奏でてくれたお蔭で、ある途轍もない?事実に気づき腰が抜けるほど驚いた次第である。

Schk_ciac_bas_2

同『シャコンヌ』のコンティヌオのバスパート、※点線内が低音主題

 そうなのだ。調こそ違うがバッハの『14のカノン』BWV1087の冒頭の単純カノンの主題そのものである。(下記、バッハ自筆譜より)

Bwv1087_1

 作品番号が示すようにこのカノン集は1974年に新発見されたもので、バッハのあの大作『ゴルトベルク変奏曲』BWV998の初版の自家本発見というだけでもバッハ研究に衝撃を与えたのだが、付録として『ゴルトベルク変奏曲』の冒頭の主題アリア

Bwv988

『ゴールトベルク変奏曲』の冒頭の主題アリア

の前半部の低音主題の最初の8つの音を主題として複雑に展開構成したカノン14曲が添えられていたのである。晩年のバッハの創作の深い精神性をさらに掘り下げることとなった。かのカノン集の冒頭には『先のアリアの最初の8つの基礎低音に基づく種々のカノン』との表題がついている。

 つまり、このシェンクの『シャコンヌ』の低音主題はバッハの『ゴルトベルク変奏曲』の低音主題(の一部)と全く同一なのである。

Baseline

 あわてて手元のバッハ関連の本を調べてみた。

『バッハ事典』(東京書籍)…

 「曲(冒頭アリア)は典雅なフランス風サラバンドであるが、作曲者がバッハ自身であるという確証は、存在しない。注意を要するのは、この典雅な旋律それ自体が主題であるのではなく、これを支えるバスの動きが各変奏の基礎になっている、ということである。」

  とだけであってこの低音主題の由来について言及されていない。

『バッハの鍵盤音楽』D.シューレンバーグ著~佐藤望/木村佐千子共訳(小学館)…

 『ゴルトベルク変奏』は、こうした一定のバス旋律に基づいている。この旋律のはじめの4つの音は、ヨーハン・クリストフ・バッハ---アイゼナッハで活躍したこの名の作曲家(1642~1703)のことであると考えられている---の曲とされている『12の変奏曲』の原曲となったサラバンドで基礎ともなっている。

…やや類似したバス旋律はラインケンの『組曲ハ長調』(MM,No.15)のはじめの3楽章にも見られる。

 とやや詳しく解説している。

『J.S.バッハ14のカノン ゴールトベルグ変奏曲のアリアによるBWV1087』ベーレンライター原典版21(全音楽譜出版社)序文…

 最初にくるのは4つの単純なカノンで主題だけを素材として、標準形、反行形逆行形で取り扱う(ふしぎなことに、17世紀のはじめにすでにつかわれていたこの主題のカノン的可能性を認めたり、利用したものはバッハ以前には誰もいない。)

 と、(ルネサンス期に見られたような)広く親しまれた低音旋律の一つであること示唆しているが、この旋律を引用した音楽家を具体的にあげていない。

 いずれにせよ、シェンクの『シャコンヌ』とバッハの『ゴルトベルク変奏曲』の関連を指摘したものは見つからなかった。これ見よがしに「Hackbrett(ダルシマー)」でその低音主題を奏でている演奏者たちはこの事実を知るか知らぬかはともかく、先のCDの解説には、この事には一言も触れていない。知る人ゾ知る世界かもしれないが、シェンクの知名度があがるネタなのに、あ~もったいない。

バッハとシェンク、ヴァイスとの意外な繋がりを垣間見るも…

 何故か歯がゆさだけが残った藤兵衛であった。

 

|

« 花見の後にシェンク | トップページ | シェンクの伝記、そしてヴァイスとの関係 »

音楽」カテゴリの記事

コメント

転勤されてお忙しくされていることと思います。
>17世紀のはじめにすでにつかわれていたこの主題のカノン的可能性を認めたり、利用したものはバッハ以前には誰もいない
さすがバッハということでしょうか。
それにしても興味深いことですね。

投稿: nyankome | 2009年4月 2日 (木) 22時40分

楽しみに拝見しております
ContiのCDも購入させていただきました

話題の低音主題のことは、西山まりえさんが、彼女のCDでロマネスカとして演奏、解説も書いておられるようです。
自分ではまだ未聴ですが・・・。

投稿: 田舎のガンバ弾き | 2009年4月 3日 (金) 14時38分

nyankomeさん、コメントありがとうございます。バッハはまさに「小川ではなく海である」ですね。まだまだ色々なことが潜んでいるのでしょうね。

投稿: 藤兵衛 | 2009年4月 3日 (金) 20時34分

田舎のガンバ弾きさん、はじめまして。
コメントありがとうございます。
おそらくバッハとシェンクのつながりはほとんどなかったと思います。それぞれがたまたまこの旋律に魅せられて作品を書いたのでしょう。
また、情報ありがとうございます。西山まりえさん…いつか聴いてみたいなと思っていたので、早速オーダーしてしまいました。
今後ともよろしくお願いします。

投稿: 藤兵衛 | 2009年4月 3日 (金) 20時43分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: シェンクのシャコンヌ=バッハのゴルトベルク変奏曲!?:

« 花見の後にシェンク | トップページ | シェンクの伝記、そしてヴァイスとの関係 »