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私の愛器~リウト・アッティオルバート

 仕事が一段落ついたところで、遅ればせながら、深手を負い長 い入院生活の後、先日無事に修理を終えた我がリウト・アッティオルバートを改めて御紹介。

  イタリア語で「Liuto attiorbato」すなわち「テオルボ化されたリュート」という意味という。17世紀前半にはイタリアで普及していたらしい。一般的なG調弦のルネサンス・リュートは直角近くに折れ曲がった糸倉(ペグボックス)に10コース程度までを格納し指板上に配置するようになってはいたが、このリウト・アッティオルバートは7コースのルネサンス・リュートの糸倉をまっすぐに引き延ばして、その先端に7コースの拡張バス弦を取りつけた楽器と思えば良い。何と14コースの弦を持ち(1コースのみシングル)、計27本のリュート属最大の弦を有する楽器なのである。ちなみに、後に出現するアーチリュートと混同されている場合が多い(後述)。

 そもそも、テオルボ、キタローネ、アーチリュートの区別分類について、当時でもかなり曖昧なところがある。一例をあげるとキタローネは金属弦、テオルボはガット弦を張ったと誠しやかに言われていた。近年になってかなり研究が進み、整理されて来てはいるが、明確な定義がある訳ではない。Wikipediaをはじめ、竹内太郎さんRobert Spencer氏の論文Nyankomeさんのプログのコメントなどが参考になる。個人的には第一線で活躍されている竹内さんの記事が説得力があり、要点が判りやすくまとめられていると思う。

 以下は私見。

 16世紀後半にイタリアで起こったカメラータにおける声楽の伴奏用として拡張バス弦を持つテオルボと呼ばれる楽器がリュートを元にして創作された。モノディ様式からオペラへと発展していくなかで、その原点である「古代ギリシア」の精神を尊ぶ上でギリシアの楽器の名前に因む「キタローネ(Chitarrone)」という別称(愛称)が生まれたと考えられる。
 つまり、拡張バス(指板外の低音弦)をとめるネックからまっすぐに伸びた糸倉(ペグボックス)を持ち通奏低音の伴奏に特化した楽器をリュートと区別してイタリア語で「ティオルバ(Tiorba)」と呼んだのであろう。オペラの広がりとともにヨーロッパ各地で「テオルボ(Theorbo, Théorbe)」として普及し、当地の好みに合わせて様々な亜種が派生し混乱をまねくのである。
 話をリウト・アッティオルバートに戻すと、この楽器は文字通り「テオルボ化されたリュート」であってテオルボではないである。要するに「テオルボの様な拡張バス弦をもった(独奏用)リュート」と捉えるのが一番本質をついている。
 事実この時代のPiccinini、Kapsperger、Gianoncelliなどの「di Liuto(リュートのため)」の独奏用作品は最大14コースを要する楽器すなわちリウト・アッティオルバートを想定しているのは間違いないからである。いわばイタリアにおいてはルネサンスからバロック時代の過渡期の楽器なのである。
 だが、イタリアでは、恐竜と同じように異常進化したこの楽器をもってリュートは衰退をとげる。辛うじてZamboniの「D'INTAVOLATURA DI LEUTO」1718でその残滓を留める。以前と同じく「リュートのため」とあるが、ここでは「アーチリュート(Arciliuto)」を指している。「大きなリュート」の意を持つこの楽器は、今まで述べたリュートの進化の過程から言えば、正確には「大きなリウト・アッティオルバート」と言うべきである。
 すなわちテオルボとは別に、新たにバロック様式(器楽合奏)に対応した通奏低音用に特化したリュート(リウト・アッティオルバート)が、アーチリュートなのだと思えてならない。そして、このアーチリュートは、イタリア発祥のオペラに寄生する形で生き残ったテオルボと共生し、フランス、ドイツ、イギリス各地の宮廷や奏者の好みに従って、まさに自家薬籠中の楽器として活躍したのである。ドイツ後期バロックリュートがテオルボとしばし混同されるのは尤もなことである。

以上、とりとめのないことを述べてきたが、私の件(くだん)の楽器を紹介(写真奥)。

ロンドンで修行しスペインのバルセロナ在住の製作家アレキサンダー・ホプキンス
(Alexander Hopkins)の作品。おそらくMatteo Sellasの楽器をベースにしていると思われる。

Liutoattio_barlut01

 弦長は指板上58㎝、拡張バス弦86㎝とコンパクト、以前紹介したコーエン作の所謂ジャーマンテオルボ型バロックリュート(指板上70㎝、拡張バス弦97㎝)と並べてみると一目瞭然。安価な割りに工作精度も高く装飾もそれなりにイタリアン。例えば裏面…配色は異なるが、昔訪れ目にしたバチカンの衛士のコスチュームを想いだす。

Liutoattio_barlut02

  某有名ギターショップで中古品として委託販売(持ち主は誰?)されていたのが目に留まった。物珍しさと…実際、製作依頼でもしない限りお目にかかることもない楽器、しかも即座にゲットできるとはまさに千載一遇のチャンス…、あまり弾かれていない美品ということもあってまさしく一目惚れの衝動買い(新車購入資金を切り崩す…あ~う~sweat01)。ところが、購入後じっくり弾いてみて癖のある楽器と知る。…あまり弾かれていないのはさもありなん。お蔵入りになりそうなところが、不注意で壊したことが幸いする。修理ついで奥清秀さんに、容易にできる範囲で調整してもらって以前よりも弾きやすくなったのだ。本当はボディの改修をしてもらいたかったが、明らかに素人目にもとても大がかりになりそう(作り直すに等しい?)なので、これは断念。

 ペグの回転がよくなったことで、調弦のストレスが格段に和らいだのが何よりもうれしい。手狭な書斎にてそのコンパクトさも見直され触れる機会も多くなった。これを機会に、この楽器でイタリア初期バロックのリュート音楽(…苦手なイタリア式タブラチュアも)に慣れ親しまん…。
 とはいっても、その弦の多さと一部張られているガット弦に「あ~も~」と日夜格闘する宿命からは決して免れない…ナイルガットやシングル仕様にする手もあるが…。

   しっかり元は取らねばと、妙に偏屈になっている藤兵衛である。

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コメント

某G社の委託楽器のコーナーにあった楽器ですね。
どなたが買われたのだろうと思っていました。
これだけ弦が多いと、いろいろと大変でしょうね。
大型楽器、いつかは欲しいですが、ルネサンスリュートとバロックギターをある程度弾きこなせるようになるよう頑張ります。

投稿: nyankome | 2009年3月 3日 (火) 21時03分

コメントありがとうございます。
この楽器の出所ご指摘の通りです。琵琶乃院さんの知己の製作家さん…HPのにこの楽器の制作過程を写真で紹介されていました。これを見て、この楽器に愛着がわいてきました。 基本的にはルネサンスリュートなので、邪道になるかも知れませんが、手つかずのルネサンスの曲にも触れてみようかなと思っています。インテリアもしくは楽器庫の肥やしにならずによかった~と楽器も喜んでくれてるかな?

投稿: 藤兵衛 | 2009年3月 4日 (水) 20時26分

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