バッハとリュートあれこれ(4)~新バッハ全集とリュート曲
バッハのリュート曲は『新バッハ全集』シリーズⅤの第10巻(Klavier- und Lautenwerke)として1976年に刊行された。
『旧バッハ全集』で掲載されていたクラヴィーアや楽器不定曲であった5曲
- 前奏曲ハ短調(BWV999)
- 組曲ホ長調(BWV1006a)
- 組曲ホ短調(BWV996)
- 組曲(パルティータ)ハ短調(BWV997)
- 前奏曲、フーガとアレグロ変ホ長調(BWV998)
未掲載の2曲
- 組曲ト短調(BWV995)
- フーガト短調(BWV1000)
以上、我々が現在バッハのリュート曲としてなれ親しむ7曲(ブリューガー版でリュート曲とされた全曲)が晴れてリュート曲として認定されたのである。
ご覧のようにBWV番号が付加されて見事にリュート曲としてお目見えしたのである。
譜面は原点の音部記号も冒頭に示され、BWV1000版は原典のタブラチァア譜が付記されて『旧バッハ全集』よりも進化している。
ただし、何をもって『新バッハ全集』が採用する決定稿となしたかは、1982年刊行の同巻の『校訂報告書』による検証(研究)報告をまたねばならなかった。
『新バッハ全集』シリーズV:第10巻(右)と同『校訂報告』
その時点までは、権威に阿る一般の善良な愛好家は『新バッハ全集』の譜面を信じるしかなかったわけである。しかし、最大の問題は、『新バッハ全集』のこの譜面はあくまでも原典資料の検証や校訂の成果を集約した「批判版」であり、運指などを付し実際の演奏の便宜をはかる「実用版」ではないのである。お判りの通り、ピアノ(チェンバロ)譜同然の2段鍵譜を用いるところは『旧バッハ全集』と何ら変わっていない。タブラチュア化されて初めてリュートとしての実用譜となるのである。このことが一般のリュート愛好家にとって大きな障壁となって立ちはだかったのである。
さいわいなことに、BWV1000は原典のヴァイラウホによるタブラチァア譜が浄書されて2段譜掲載こと、更に同巻『校訂報告書に』BWV995および997のタブラチァア譜資料の
ファクシミリが付録として掲載されたことである。
BWV995 のタブラチァア (筆写 ファルケンハーゲン?近年の説)
Musikbibliothek der Stadt Leipzig Sammlung Becker III,11,3
BWV997 のタブラチァア (筆写 ヴァイラウホ)
Musikbibliothek der Stadt Leipzig Sammlung Becker III,11,5
ただし、いずれも2次(以下)的資料なので様々な疑問や批判があがったが、実用譜としてのタブラチュアが存在していることは、これらの作品が当時現実にリュートで演奏されたことを証明している。この『校訂報告』によってバッハのリュート演奏(研究)に弾みが付くわけであるが、この改訂報告書を読めば読むほど事態は混迷してくるのである。
あ~あ、日の出が遅いので記事を書き始めたものの、朝はやくから泥沼にはいってしまったようだ。
校正もそこそこに気分直しに朝駆けにうって出ようとする藤兵衛であった。
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