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バッハとリュートあれこれ(6)~ツェルボーニ版バッハリュート作品全集

 先日、原典ファクシミリを掲載した現代ギター臨時増刊『名曲演奏のPARTⅢ バッハ/リュート作品の全て』を紹介したが、その前年の1980年、イタリアのツェルボーニ社から以下のような『バッハリュート作品全集 オリジナル版』が出版されている。
P1000325

   Edizioni Suvini Zerboni-Milano 1980年出版

イタリア語の他、ドイツ語、英語で解説文がついている。その序文の一部(英語)を抜粋する。

                                                                                  …The aim of this publication, therefore, is to fill the gap by offering to lutenists and other interested students a reliable and scrupulous study tool, with an accurate critical commentary and faithful adherence to the original manuscripts.
  In the hope that this volume will find favour with the music-loving public, we are confident that it will offer a valuable contribution to the correct reading of the worksincluded, whose meaning and proportions have all too often been warped and distorted by bad ranscriptions. 

 要約すれば「適切な知識情報やオリジナル譜に基づいた全集を出版することによって、今までの歪められていたバッハのリュート作品の編曲や知識に対して正しい解釈の手段を提供し、リュートを学ぶものに便宜を図った」とのこと。

内容を紹介してみよう。

  • 序文
  • バッハのリュート作品データ
  • バロックリュートとタブラチュア
  • 編集方針
  • 出典と資料批判(各曲解説)
  • 原典ファクシミリ
  • 本編楽譜
  • 付録(参考楽譜)

掲載された本編の各曲の冒頭は次の通り…。

Bwv995_z 

Bwv995t_z_3

Bwv996_z

Bwv997pf_z

Bwv998pl_z

Bwv999_z

Bwv1000_z

Bwv1006a_z

  新旧バッハ全集が2段譜であったのに対して、ブリューガー版と同じギター1段譜が採用され、ギター譜では用いない低音C以下は8の数字が添えられており、ギター譜あるいはバッハの無伴奏ヴァイオリン曲の譜面に親しんだものには自然体で読譜ができるようになっている。

 ブリューガー版をはじめギター編曲(移調)版と決定的にちがうのは、初めてオリジナルリュート曲通りの原調で表記されたということである。さらに、タブラチュア譜が伝えられているBWV995、BWV997、BWV1000は5線譜の上にそれを併記している。BWV998のアレグロには、オルガン用タブラチァア譜まで掲載するという徹底ぶりである。

Bwv998al_z_2

 これによってリュートにとって初めて「実用譜」に一歩近づいた感がある。ただし、本格的な実用譜と呼ぶにはタブラチァア化が必要であるが、タブラチュアは一種の編曲というべき編集者の意思(作為)が反映されるので敢えてそれを避けあくまでも原典資料に準拠した「批判版」の体裁を保っている。よってBWV997のフーガ、ジーグ-ドゥーブルはあくまでも他の資料から5線譜を起こしている。

Bwv997f_z_2

 全集の冒頭に掲載された原典ファクシミリと各資料の解説を参照することで見事に文字(序文)通り、我々リュート奏者(愛好家)に研究の便宜を図っている。ただBWV998のファクシミリは現在それを所蔵する上野学園大学の協力がえられず未掲載となっている。当時、資料公開に対する体制(概念)が整っていないにせよ、他国のいや世界(人類)の貴重な文化遺産を独占し秘匿するという、個人のコレクションならいざ知らず学問機関としてあるまじき姿勢には大いに疑問を感じた。現在はどうなのであろうか?

Tttt

この空白部分には御丁寧(皮肉たっぷりに)に伊独英三か国語で断り書きが添えられている。

 私自身これを見て言いようのない悲しみにとらわれたことを覚えている。あえてその英文を引用掲載する。

  We are grateful to the Libraries and Museums who gave us their authorizationto the reproduction of the manuscripts and pictures present in this volume.The refusal of the permission from the Ueno Gakuen College of Tokyo did not allow us to reproduce the Preludio, Fuga and Allegro BWV998.

……話をもどそう。

  この全集の目玉の一つは、今まであまり光をあたえられなかったリュートパートが含まれるバッハの声楽作品2曲の総譜が掲載されたことである。

Bwv198

 BWV198 「追悼頌歌」~レシタティーヴォ

Bwv245

 BWV245  ヨハネ受難曲 アリオーソ

 残念ながらこれらには原典ファクシミリは伴っていない。敢えて苦言を呈すればBWV244マタイ受難曲の初期稿にみられるアリアのリュートパート(後ヴィオラ・ダ・ガンバに改訂)が掲載されていないことぐらいか?…各々の詳細については改めて後日紹介する予定。

  そして、まさに止めを刺されたのは、巻末には付録として、他楽器(ヴァイオリン、チェロ、オルガン)版や異稿譜が掲載されていることだ。

  1. 無伴奏チェロ組曲第5番BWV1011全曲
  2. BWV996のイ短調クラヴィーア版異稿
  3. BWV997のクラヴィーア用異稿※異稿間で異なる部分を併記
  4. BWV539オルガン曲よりフーガニ短調(BWV1000の別稿)
  5. 無伴奏ヴァイオリンソナタBWV1001のフーガ
  6. 無伴奏ヴァイオリンパルティータBWV1006全曲 

  以上、誠に至れり尽くせりの超豪華版となっている。

※追記:BWV29カンタータ冒頭のシンフォニアのオルガンパート(BWV1006aのプレリュードに対応)もあればほぼオールキャスト勢ぞろい

 全集に掲載されている解説は、ブリューガの全集を始め、今までの既出のバッハ研究の成果を元にしており特に目新しいことはないが、この時点でこれだけの資料を揃えたことは意義深く称賛に値する。

 そして、1982年、待望の『新バッハ全集』のリュート曲に関する『校訂報告』が発刊される。

 このZerboniの全集にだいぶ助けられた藤兵衛であった。

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