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ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ

  一昨年前、ヴィオラ・ダ・ガンバを手に入れる前後にこの楽器についてネットで調べていたところ、たまたま、ラ・プティット・バンドやバッハ・コレギウム・ジャパンで活躍されているヴァイオリン奏者の寺神戸亮氏のブログ「Violoncello da Spalla(ヴィオロンチェロ・ダ・スパラ)」なる楽器を発見した。
     
 最近、復元されたこの楽器で氏自ら演奏したバッハの無伴奏チェロ組曲全集のCDが発売された(演奏会も行なわれた)ことを知り、早速購入。

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                                                 写真©永田忠彦

 この不思議な楽器を、CDの解説をもとに不肖藤兵衛が紹介してみよう。

       
 Viola da gambaの「ガンバ(gamba)=足」に対してスパラ(spalla)は「肩」をさす言葉である。といってもガンバ族のような一族をなしているわけではない。現在この「ガンバ族」に対してヴァイオリン族が圧倒的優勢を勝ち得ているが、この「ヴァイオリン族」という言い方は正確ではない。本来は「ヴラッチョ(braccio=腕)族」というべきである。ことの顛末は、「Viola da braccio」なる楽器が一族の中心であったが、それから派生した「Violino(小さいViola)」が一族の長の座を奪ったのみならずViolinとして楽器の代表格となったため、わざわざ「~da braccio」をつける必要がなくなったという次第である。一方、Viola da braccioの大型版「Violone」(ガンバ族でも同一名の楽器が存在)も存在した。ただ、腕に抱えるのが困難な大きさであったようで、17世紀前半、その「Violone」を小型化した「Violonciono」または「Violoncello」なるものが登場した。それでも、腕だけではもてあます大きさなのでストラップを使い肩にかけたところから「Violoncello da Spalla」という名称が生じたわけだ。

 藤兵衛が思うに、このあたりから混乱が生じたのであろう。Violoncello(Violonciono)の大きさと重量とハイポジション演奏の煩わしさ(下記イラスト参照)嫌った横着者が足で支え始めたのだ。

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(挿絵注:先の寺神戸氏のリンク先のページからの引用)

 それがいわゆるバロックチェロすなわち現在のチェロの流れとなる。一方、肩(腕)にこだわった正当派はハイポジションの演奏テクニックをカバーするため高音弦(e1)を付け加えた5絃の楽器を編み出したものの少数派に甘んじることになった。そのためVioloncelloといえば我々の知るチェロをさすようになったということなのだろう。ただし、この頃の楽曲にVioloncelloの指定があったときは一応本当にチェロかどうか疑ってみる必要があると寺神戸氏は指摘されている。

 バッハの無伴奏チェロ組曲BWV1007-1012との関係について超要約…

バッハの無伴奏チェロ組曲第六番では「5弦の楽器で」との指定がある。腕で支える「Viola pomposa」という楽器が推定されていたが、バッハの9曲のカンターター(下記例)で技巧的に使われている「Violoncello piccolo」であることが最近の説。CDの解説では、この2つの楽器Viola pomposaとVioloncello piccoloは前述のViolonciono(Violoncello)と同一でありVioloncello da Spallaの別称であると推論。

カンタータBWV175「主は己の羊の名を呼びたもう」より第4曲アリア冒頭     

  寺神戸氏におかれては、実際にこの楽器で無伴奏チェロ組曲全曲をチャレンジされ、チェロよりも指使いや和音の扱いが容易になるという合理性を確認し(解説に各曲ごとに演奏レポートが添えられている)、さらに曲の成立の背景を検証し直すことによって無伴奏チェロ組曲はVioloncello da Spallaで演奏することが自然であると結論づけられ今回の快挙となったわけである。

 チェロともヴィオラともガンバともちがう、うっかりするとサックスにも思えてくる不思議な音色(楽器がいかにも出来立てという感じは仕方ないが…)。端正かつチェロの重たさを感じさせない軽やかな新鮮味あふれた「すぱらシイ」演奏(…あ~あ、とうとう言ってしまったcoldsweats01)である。なによりも「こうでなければならない」でなく「こうしたい、こうありたい、こうであろう」と、ヴァイオリン奏者の立場で無伴奏チェロ組曲に果敢に挑戦し表現した姿勢と意欲に共感notesおすすめ!解説も一読の価値あり

Spallaの日本語表記を「スッパラ」と誤記してしまいました。正しくは「スパッラ」のです。訂正がてら情報をお寄せいただきこの場で感謝申し上げます。

うっかり藤兵衛

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コメント

お早う御座います。

当時はスッパラの方がメジャーで、
ガンバ式のチェロはまだまだ新参の楽器だったらしく、
ボッケリーニ辺りが活躍し始める前古典派に入ってから一般的になったようです。

また、バッハはヴァイオリンやヴィオラといったブラッチョの名手でしたから、
スッパラも弾けた様な気がしますね。
だとすれば、この曲をスッパラで演奏する事はごく自然な成り行きなのかも知れません。

兎にも角にも、
スッパラの再発見による影響は少なくないよう様な気がしますし、
今後の寺神戸さんとスッパラの活躍が楽しみです。

投稿: 黒羊紳士 | 2008年7月30日 (水) 05時37分

昨日の朝、ラ・プティット・バンドのコンサートがBSで放送されていました。
ジギスヴァルト・クイケンが、この楽器を弾いていましたね。

このCD聴いてみたいですね。

投稿: nyankome | 2008年7月30日 (水) 06時27分

記事にて "スッパラ(spalla)" とされていますが、日本語の単語としては”スパッラ”が使われているようですよ。「すっぱら」ではなく「すぱっら」です。
発音は《すっぱら》ではなく《すぱルら》な感じです。

投稿: 山崎樹弥 | 2012年7月 6日 (金) 16時46分

ご指摘いただき恐縮のいたりです。
綴りの通り、まさしく「スパッラ」です。自転車記事でも時々やらかしているうっかり藤兵衛…。希少な情報を紹介発信する責任の重さを痛感いたしました。早速訂正いたしました。

投稿: 藤兵衛 | 2012年7月 6日 (金) 17時16分

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